大正製薬が、未硬化ジェルやアセトンによる手湿疹(炎症)や黒ずみの発症機序を解明

大正製薬株式会社(上原 茂社長)は、おしゃれと皮膚トラブルとの関係性について研究を進めている。このたび、ネイルケアに着目し、十分に硬化されないジェルネイル(未硬化ジェル)やネイル落とし(アセトン)により、ときに起こりうる手湿疹(炎症)や黒ずみの発症機序を明らかにした。
これまでにも同社は、おしゃれに伴う皮膚トラブルとして、「Vゾーンの脱毛後の黒ずみ・くすみ」に関する研究リリースを発信しており※1、今回のネイルケアによる手湿疹に関する研究はそれに次ぐものとなる。

以下、リリースによる。
【研究結果】
~未硬化ジェルやアセトンによる手湿疹(炎症)や黒ずみの発症機序を解明~

今回着目したネイルケアのジェルネイルとは爪にジェル状のカラー剤を塗布し、UVライト又はLEDライトを当て硬化(重合)させるものです。まれに照射時間が不十分などの理由から、ジェルネイルが十分に重合されない場合があります。そして、爪周囲の皮膚に未重合のジェルネイルが付着した場合に、皮膚トラブルを引き起こすことが報告されています※2。
また、アセトンとはマニキュアやジェルネイルを落とす際に使用するもので、脱脂作用によりときに乾燥や手湿疹(炎症)を引き起こす原因になることがあります。

今回、未硬化ジェルやアセトンが引き起こす炎症や黒ずみの発症機序を解明するために、3次元培養表皮を用いて実験を行いました。3次元培養表皮を未硬化ジェルやアセトンで刺激すると、経表皮水分蒸散量(TEWL)が上昇しバリア機能が低下すること、さらに、炎症やメラニン生成に関わる因子(プロスタグランジンE2合成酵素及びエンドセリン-1)の遺伝子発現量が上昇することがわかりました。
本実験により、未硬化ジェルやアセトンは、バリア機能を低下させ皮膚の乾燥を誘導するだけでなく、手湿疹の原因となる炎症や、黒ずみを引き起こす因子の遺伝子発現を促進させることが明らかとなりました。


図1 未硬化ジェルやアセトンによる手湿疹(炎症)や黒ずみの発症機序を解明
3次元培養表⽪を未硬化ジェル⼜はアセトンで刺激し、経表⽪⽔分蒸散量(TEWL)、遺伝子発現量を評価した。
TEWLは刺激なしの値を100%とした相対比、遺伝子発現量は刺激なしの値を1とした相対比。
n=3、平均値+標準誤差(TEWL)、平均値+標準偏差(遺伝子発現量)、**:p<0.01、 ***:p<0.001vs刺激なし(Dunnett’s test)

※1 2023年11月15日発表リリース:Vゾーンの脱毛後は肌トラブルが多い!?Vゾーンの脱毛後、黒ずみ・くすみが起こる原因を解析
~美容医学の専門家 日本医科大学皮膚科教授 船坂陽子先生にインタビュー~
https://www.taisho.co.jp/company/news/2023/20231115001435.html

※2 参考文献:鈴木加余子, FRAGRANCE JOURNAL, 2023, 51(2), 42-45.


【美容医学の専門家からのアドバイス】
~ステロイド外用剤の効果的な使い方~
今回の結果を踏まえ、美容医学の専門家である池袋西口病院美容皮膚科部長 船坂陽子先生におしゃれに伴う皮膚トラブル及びステロイド外用剤の効果的な使い方について、お話して頂きました。

1.皮膚炎を痕に残さないためには早めのステロイド外用剤使用が大切
おしゃれのための行為(脱毛やネイルケア等)が刺激となり、ときに皮膚トラブル(皮膚炎)が生じることがあります。皮膚炎によりメラニン生成が過剰になり黒ずみ(色素沈着)が発生しますが、適切な対処をせずに症状が慢性化すると痕が残ることもあります。そのため、炎症を抑制する働きがあるステロイド外用剤を使用して早めに対処することが大切です。ただし、症状によってはステロイド外用剤でなく別の対処が必要な場合もありますので、ステロイド外用剤を5~6日間使用しても症状が改善しない場合は医師や薬剤師にご相談ください。おしゃれを楽しむためにも、正しい知識をもって皮膚トラブルに適切に対処しましょう。

2.皮膚炎後の黒ずみについて
皮膚炎後の黒ずみの原因は、炎症により過剰にメラニンが分泌され発生する色素沈着であるといわれています。ステロイド外用剤が黒ずみを引き起こすという誤った情報を目にすることもありますが、赤みが引いて炎症後の色素沈着が目立つことが主な要因です。炎症を抑制する働きのあるステロイド外用剤を使用することは黒ずみ防止に繋がります。

3.ステロイド外用剤の強さについて
ステロイド外用剤には、作用が強いものから順にストロンゲスト、ベリーストロング、ストロング、ミディアム、ウィークの5段階があります。
弱いステロイド外用剤を希望される患者さんもいますが、症状に対して強さが不十分な状態で使用した場合、症状が改善せず慢性化し、痕が残ることもあります。そのため、皮膚炎治療では症状に適した十分な強さのステロイド外用剤でしっかり効果を得ることが重要です。

4.ステロイド外用剤の剤形について
ステロイド外用剤には軟膏剤、クリーム剤、ローション剤といった剤形があります。例えば、デコルテ・首元など汗をかきやすく薬剤が流れやすい箇所や湿潤した症状には軟膏剤、手指などのべたつきが気になる箇所にはクリーム剤、頭皮などクリーム剤や軟膏剤が塗布しづらい箇所にはローション剤というように、使用部位や症状に合わせて剤形を選択することができます。


池袋西口病院美容皮膚科部長 船坂陽子(ふなさかようこ)先生 プロフィール
1984年に神戸大学医学部卒業後、皮膚科医として診察に携わりながら同大学大学院医学研究科皮膚科学で研究に従事。
1989年から2年間、米国イエール大学へ留学。
帰国後、神戸大学大学院医学研究科皮膚科学分野准教授、日本医科大学皮膚科学教授を経て、2024年4月池袋西口病院美容皮膚科部長就任。
日本医科大学名誉教授。

国際色素細胞学会会長、日本美容皮膚科学会理事、日本光医学・光生物学会理事、日本レーザー医学会理事等を歴任。